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彼女の初恋の話。
 
夢を見た。
懐かしい顔ぶれが登場した夢だった。

今日は、その夢の主人公で、双子のように育ったある女の子の話を書こうとおもう。

その子は、あたしが小学校4年生の時、突然私の前に現れた。
何でだったのかはよく覚えてないが、あたしはその子とすぐ仲良くなって、何でも彼女に話した。毎日、毎日。
彼女もそうだった。毎日、毎日。
夜な夜なずーっと私たちは話をした。
彼女のおかげで面倒な事を抱え込まずに多感な頃をやり過ごせたんだと思う。



中学生になった頃、彼女は一人の男の子に恋をした。
同級生の、ちょっとチャーリー・ブラウンに似たへーとー君に。
彼女より少し背が高くて、奥二重の少し切れ長のたれた目で、笑顔の素敵な男の子。
やんちゃなのにどこか落ち着いていて、お兄さんのようになんだか安心できる人で、
くすっとくる笑いを誘って、周りを優しい、楽しい気持ちにさせる、そんな子だった。

彼女は中学時代に2回彼に告白している。
そして2度とも「ありがとう」の言葉と、精一杯の優しい笑顔が彼の返事だった。
1度目の告白の後、彼にも好きな子がいることを彼女は知った。
それからも、彼女はへーとー君が好きで、へーとー君はその違う彼女の事が好きだった。
2度目は告白というより、彼のお誕生日にプレゼントをあげた。
彼女は、彼をもう困らせまいと彼への想いをしまい込んだ。
いや、彼女なりにもう無理だという事を悟ったのかもしれない。

高校に進学の頃、彼女は、後の彼女の生き方を左右したであろう人と出会う。
時は第2次バンドブーム期終盤、彼女も好きなバンドがいて、そのバンドで1番好きなメンバーがソロでライブをしに大阪にやってくるという事でライブハウスに足を運んだ。
その時、バンドのギタリストとして彼女のまん前でステージにいたのがその人だった。
ライブが終わってバンドのメンバーが物販に出てきた頃、もみくちゃのロビーから逃げるように出た彼女の後から走ってきたその人が、彼女に、握り締めていた1枚のフライヤーを渡して、自分のバンドのライブがあるからと声をかけた。

それから彼女とその人は何でもよく話した。
年が少し離れていたことで、兄妹のようだったのかもしれない。
遠く離れた街で、互いに見た景色、出会った人、音楽の話し、目の前にある夢の扉のこと
会えない時間を埋めるように、友達には言えない本音を語り合った。
お互いの恋の話、彼女、彼氏の話も。
中学の頃に初めて恋をして実らなかったあの彼のこと、
高校生になってその彼とまた同じクラスになってしまったこと
あの彼を忘れてしまえるような、好きと思える、サッカーの上手な男の子ができた事
海に同じクラスの皆で一泊の旅行に行って、その新しい好きな人と朝まで砂浜で話しをして、二人っきりで朝日を見たこと
彼の部屋で、彼の背中越しに見た夕日がとても綺麗だったこと
だけど、どこか、心のどこかであの実らなかった恋の人がずっと忘れられないこと
その事があってかなくてか、その人と別れちゃったこと
その後、どうでもいいような人と付き合ってしまったこと
また信じたい人を信じきれずに手放してしまったこと


会うたびに良い意味でも悪い意味でも
少しずつ大人になってゆくその子とその人は手を繋いで
良い意味でも悪い意味でも互いに独り占めできないまま
長い時間を2人だけで重ねて、なんとも言いようの無い関係は続いてゆく
喧嘩しながら、仲直りして、どんなに忙しくなっても時間を割いては想いを連ね
欠けたパズルのピースをはめあうかのように、
たとえば、あの池の淵の月明かりで、針の穴に通した糸を紡ぐように
静かに、長い長い年月を。


でもお互い、守らなくちゃならないものが増えすぎたのかな
もう困らせまいと想いをしまい込んだ。
いや、互いにもう無理だという事をやっと悟ったのかもしれない。



ある時、彼女は身内を亡くした
亡くした悲しみよりも、泣きたい時に泣けない苛立ちとわだかまりが彼女を扉の向こうへ閉じ込めた。
甘えられるはずの今の頼りも幻想だったということを体感し、
彼女は耳が壊れるほど大音量でステレオから音楽を流しながら、真夜中の街を車で走しるようになった。
開けてはならない箱と解りながら、欠けたピースを埋めるかのように
彼女はあの人の音をオーディオから流す
ほかの曲ならまだよかった
絶対にこの曲だけは二度と聴くまいと深く押し込んでおいた曲たちを自ら引っ張り出した。
音楽は時に残酷だ。
その日の景色や感触、肌の温もりさえも刻銘にフラッシュバックさせてしまう。
いや、フラッシュバックすることを彼女は望んでいたんだろう
たとえ心の中だけでも寄り添っていたかったのだと。

静まり返った夜の街に彼女だけの空間が出来上がる
誰にも邪魔されない、誰にも迷惑かけない、誰も悲しませない
この時間だけは彼女のものだった。
そう、誰も巻き込まない、誰の心も傷つけない。彼女はそう思っていた。

彼女はある1つのことだけは決めていた
あの人と別れを繰り返してはまた同じ事を繰り返して、彼女が学習した唯一のことだ。
どんなにたくさんの音楽に恋をしても、それを生み出した人だけは絶対に想わないと。
私たちが普通によく聴いていたよくある好きな曲たちでさえ、その聴いていた頃の感情がうぁ〜って戻ってくるのに、
もしそれを奏でた人が、その想い出の張本人だとしたら、
こんなにキツくてイタい事は無いと彼女は言った。
だからそう、音楽は時に本当に残酷である。

いつの時か、その人に聞いたことがあるという、奏でる本人はどうなの?それって、と。
それが生まれてくる瞬間の想いは作り物じゃないから、
あとは、奏でてる瞬間の想いしだいじゃないのかなぁ、と。
まぁ、人それぞれだろうけど、
考えたくないなぁ、だって、想い出にならなきゃそんなこと考えなくていいでしょ、
と言ってから暫く考えて、
いつかはなるかもしれないけど、想い出の出来事も含めて、それが無きゃやっぱ嘘になるから、と言って、付け加えるように小さく、まぁ商業的のもんは別物なんじゃないかなぁ、とちょっと苦笑いしたという。
あぁ、なるほどなぁと思った覚えがある。

夜の街を走らせる日々を半年ほど過ごしたころだろうか、
彼女は、今の頼れるはずだった人に、何故あの時、頼らせてくれなかったのかを素直に聞いてみたという。

その答えは彼女を途方にくれさせた。
あの人にはかなわない、と、そう感じたからだという。
あの人の音に君が包まれてるということは、事によっては、頭を撫でてもらったり、抱きしめてもらってる事と同じことだと思うよ、と。

もうとうに終わった話をと頭を抱えながら、
それでも誰かを傷つけていたのかと苦笑し
やっぱりあたしの自業自得なのだと彼女はつぶやいた。

彼女にもいろんなことがあって
それでも毎日を生きていくように、彼女もあたしも生きている。
いろんな想いを自分で処理できるようになって、彼女との夜な夜な話も学生の頃ほどじゃなくなったけど

あの懐かしい彼女の初恋のへーとー君やその頃の友達が夢に出てきて
彼女の重荷やわだかまりを状況打破してゆく様を見て妙な安らぎを覚え、
そこにいきなり登場したうちの父が、
こんなんだったら母を連れて行くとか、分けわかんないことを言いやがったので頭にきて
この場に及んでそんな勝手は許さんと、あたしはあたしではっきり言えたりなんかして
今日は父の命日で、やっと最後の喧嘩ができたような気がして嬉しかったりして。


暫くは彼女との会話もしなくてすむような気がする。
なんだか、この夢を見た後の目覚めは、久しぶりに気分がスッキリしている。
問題だったのは、へーとー君が彼女を受け入れなかったんじゃなくて、
彼は彼で好きな人がいたんだという現実をちゃんと受け入れなかった彼女の心だったんだ。
やっと彼女の初恋に決着がついたのだなぁと
もうその穴に下手なパテ埋めは必要なくなったのだなぁと。

そして、彼女なりの安らげる場所で、
心の終うべき場所に灯る明かりを見ながら彼女なりにゆっくり歩めばいい、受け入れながら
もう、真夜中、車を走らせなくても。


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